学会報告(3685字)

 学会報告の話に入る前に、まず学会とは何かを簡単にご説明しておきます。

 同じ分野の研究者たちが集まって、年に一回か何回か、自分の研究のお話をします。それが学会報告です。研究者は本を書いたり、論文を雑誌に寄稿したりと、文筆活動をする以外に、研究者同士で参集して発表と議論をしているわけです(そのほか、授業したり、学内会議に出たり、役員会議したり、調査したり、先生方は忙しそうですね)。大抵は継続的に行っている文献レビューや、調査研究などについての進捗報告・結果報告です。

 大きな学会であれば複数日にわたってどこかの大学で開催されます。休日がほとんどです。部屋をたくさん貸し切って、同時にたくさんの報告者がお話することになります。部屋ごとに大まかにテーマが決まっていまして、関心のある方、同じ分野の研究者が集まって、報告を聞き、質問をし、一通り終わった後に全体討論がなされることもあります。

 

 要するに学会というのは、研究者同士の情報交換、交流の場です。普段は別々の大学で院生生活をしていたり、教鞭を執りつつ研究されていたりするので、学会はそうした研究者同士を結びつけるパーティーのようなもの。報告はさしずめ食事です(パーティー、食事ということの含意は、「飯が不味くても成り立つ」というところにあります。もちろん不味ければクレームは出ますが、基本的には品評しつつも、交流を楽しむ、仕事や共同研究のお話をするといったことがメインになります。同分野っぽいから研究会に誘うとか、共同執筆の話が出たり、批評を繰り出したりなど、コミュニティ活動しているわけです)

 

 私は社会学の人間なので、所属する学会も社会学者たちが運営している学会です。最も規模の大きな日本社会学会大会が先日15日・16日にありました。このほか、エリア別の学会があります。関西社会学会、東海社会学会、西日本社会学会、北海道社会学会などです。そのエリアの大学に所属する研究者や大学院生などが参加します。さらに分野別の学会もあり、都市社会学会、地域社会学会、環境社会学会、政治社会学会などがそうした分野別学会にあたります。より小さな集団になりますので、エリア別であれば大学間交流の意味合いもあり、分野別であればもっと緊密に類似する研究分野の研究者同士が交流することもできますし、テーマセッション、シンポジウムなども分野別のホット・イシューを取り上げて盛んに議論します。

 こうした学会に所属するためには、原則として正会員の紹介が必要になります。大抵は名前だけだと思うのですが、署名をしてもらい、様式に必要事項を記入して事務局に送信、ないし郵送して、承認を待ちます。承認されたら年会費を支払うことで、学会員になることができます。年会費は学会によってまちまちですが、日本社会学会であれば大学院生は年8000円です。それで学会誌なども家に届きます。

 

 ところで「研究会」との違いですが、研究会はもっと研究分野が近い研究者や大学院生が、ホームページや会誌などを持たずに、インフォーマルな形で共同で勉強会や報告会、研究活動を行っているものです。場合によっては科研費を申請して共同研究を行い、報告書を作成したり、本を出したりしているところもあります。大学院生にとっては自分の研究を近しい分野の専門家に見てもらったり、共同研究の機会をいただいたりする可能性のある場所で、積極的に参加したいものです。

 

 さて、前置きが長くなりましたが、学会レポートを簡単に書きます。今回は日本社会学会に報告者として登壇しました。具体的な研究の中身については、稿を改めて書きますので、ここでは学会の雰囲気とか、研究の質などについてリポします。

 まず学会というのは先ほども書きましたが、研究者同士の交流の場であると思います。報告というのは「近況報告」「経過報告」としての側面が強いので、ひとまとまりの研究成果、重要な発見が提示されることは稀であるようです。私が報告した部会も、聴きに出かけた部会も、基本的には自身の研究の事例についての報告が多く、理論的な新しさが提起されるもの、ものすごく鋭い研究視角が提示されるものはあまりありません。他者の研究事例を聞いて、「なるほど、そんなことに関心を持っているのか」とか「そんな事例があって、こんな方法で研究しているんだ」といったことを知って、考えて、質問したりする。それで後程話しかけて名刺を交換して、研究の議論を深める、というのが学会だと思います。

 

 ところで今回は地域研究の部会で報告を聴いていました。いろんな研究をされている方がいますから、研究テーマが被るということは少ないはずですが、地域部会に関しては、非常に顕著な傾向がみられました。というのも3分の1くらいの報告が「地域おこし協力隊」についての事例報告だったのです。

 地域おこし協力隊というのは総務省の事業で、都市から地方へ住民票を移すことを条件に、その移住先で2年、ないし3年、お金をもらいながら地域のためになる活動に従事することができるという制度です。年額で給料は200万程度、それに活動費が同じくらいつきます。参加者の多くは20代~30代の若者です。近年は非常に多くの自治体がこの制度を利用して、外部人材を地域内に呼び込んで、地域PRや商品開発、学校魅力化、IT系技術の導入などを行い、活性化を目指しています。また協力隊員は任期が切れた後も勤務地でそのまま継続して住むことも少なくありません。6割定着、と言われています。そもそも都市から地方へ若者を呼び込むことも、この事業の政策含意です。

 

 地域おこし協力隊が地域研究の中で一つのホット・イシューになっているということでしょう。そういうことが部会の傾向から伺えます。学会報告は品評会のように、ある分野のトレンドとなる研究を知ることのできる場でもあるわけです。研究にも流行り廃りがありますから(それが必ずしも良い研究の蓄積を生むかというと疑問ですが、そうやって年々様々な研究が産出されていくことで、研究者のパースペクティブは豊かになっていくはずです)

 そうそう、なぜ外部人材の研究がトレンドになっているのかは、推測がつきます。もともと人口減少と高齢化が進んでいた地方に、地域おこし協力隊の制度が出来てから、一貫してこれを利用する自治体が増えていきました。その経過をウォッチする研究、例えば地域おこし協力隊員にアンケートをしたり、インタビューをしたり、自治体に対してアンケートをしたりする研究が徐々に増えてきました。新しい制度が始まり、それによって多くの自治体が活性化を狙い、また多くの若者がこれを期に地方へ入り、自己実現を目指したりしているわけですから、それによって何が変わるのか、どのような自治体がどんな形で利用しているのか、どんな人が参加しているのか、というのは新しいトレンドとして社会学の研究対象になるのです。外から境界をまたぎ越して、地域にはない資源や能力を持つ人が流入していく。それによって地域はどのような変容をしていくことになるのか、というのは、ある意味非常にオーソドックスな問いだとも言えます。

 しかしオーソドックスな地域研究であるとするならば、新しい事例を追いかけるだけではなく、これまでの地域社会・地域運営を、どのように変えていくのか、これまでの地域研究の何を引き継ぎ、何を新たにしていくのか、ということがもっと語られてもよいのでは?とも思うわけです。自戒を込めて言いますが、事例をただ紹介するだけで、自分の議論が従来のどういった議論に関連し、何を新しい知見として提示するのかが描かれない研究は、その地域、その分野の限定された範囲の中で意味を持つこと以上のことにはならないと思うのです。

 

 さて、話が横道に逸れましたが、学会というのは、以上で話してきたように、研究の動向を知り、それについて議論したり、交流したりする場となっています。私もかなり粗忽ではありましたが、報告を行うことで、自分と同じ分野の研究者から矢のような質問を受けることになり、部会終了後に自身が引用していた論文の作者から名刺をいただき、共同研究の話を持ちかけて頂くこともありました。そうやって研究の可能性を広げあっていく場であるというのが、初学者である私の学会理解です。

 

 そんな感じで学会を終えたら、夜は所属する研究会のメンバーや旧知の研究者と共に、皆さんまちへくり出していきます。懇親会でお酒を飲みながら、もっと自由に、いろんなお話をする。こういった学会外の交流活動も醍醐味に含まれますし、これを楽しみに参加している方もいるんじゃないかなと思います。お酒を飲んで歓談しながら、研究を分かち合い、悩みや困難を共有し、励ましあっているのです。会社みたいですね。

 

 学会ネタについては初投稿でしたから、一般的な話が多くなりましたが、また参加する機会もあるので、その際には実際の中身について話を書いていくことにします。

 それではまた。