社会を調べるとは?―はじめに3(6310字)

 前回までに社会学という学問について書きました。存在している/した社会についてのメカニズムを明らかにするとともに、そこに生きている人々が「なぜそうしているのか?」ということを知ることを目的にしていると書きました。

 

 今回はその少し漠然としている社会学という学問が、どのようにして社会についての知識にたどり着こうとしているのか、そのための武器について説明していこうと思います。

 

1.2つの方法

 

 まず、社会学という学問には二つの大きな分かれ道があります。一つは「理論」、もう一つは「実証」という分かれ道です。

 理論と実証というと難しく聞こえます。しかしこう言うと簡単です。理論とは何かを徹底的に頭の中で考えてみることです。これはこうなっている。これはきっとこうだからこうなっているに違いない、と突き詰めて想像するのが理論です(めちゃんこ簡単に言っています)。その想像は当たっていることもあれば、ズレている、行き過ぎて間違っていることもあります。

 一方で実証とは、ある社会の中で起きている出来事を実際に話を聞いたり、アンケートをとったりして「本当にそうだろうか」を調べたりする方法です。こちらの方が身近と感じられるかもしれません。実際に色んな人に意見聞いてみたら、一般的に言われていること、あるいは理論で指摘されていることと違ったということがあるわけです。

 

 少し詳しく説明してみましょう。まず理論です。

 これについては経済社会学の「弱い紐帯の理論」が具体例として理解しやすいと思います。「弱い紐帯の理論」とは、M.グラノヴェッターという経済社会学の権威が80年代に提出した理論で、ごく簡単に言うと、人は強い紐帯よりも弱い紐帯から有益な情報を、具体的には良い転職先を見つけることができるだろう、というものです。強い紐帯とは、接触頻度が多く、緊密なコミュニケーションが成り立っているつながりのことで、具体的には親友とか、家族・親族のことです。一方で弱い紐帯とは、親友ほど交友関係の密ではない友人・知人のことです。グラノヴェッターは転職に有利な情報や機会をもたらすのは、類似する性質を持つ強い紐帯で結ばれた人々ではなく、むしろ異なる社会的地位や専門をもつ、すなわち所属集団の異なる弱い紐帯で結ばれた人々であると考えました。

 関係の緊密でない人々からは、普段私たちが手にすることのない情報や機会が流れ込んでくるでしょう。あるいは家族・親族に影響されることのない自由な職場は個人にとって「良い就職先」となる可能性が高いともいえるかもしれません。

 このように考えて、ある種のパターンを抽出するのが理論です。そしてこれが理論である以上、それが「本当にそうか?」は検証できなくては意味がありません。次は実証の説明です。

 

 実際にこの「弱い紐帯の理論」は仮説として扱われ、実証研究にかけられました。転職に際して、弱い紐帯と強い紐帯、どちらが有意に作用しているのかを、いろいろな確認項目を用意して調査し、検討してみるのです。その際にアンケート用紙を配って答えてもらったり、インタビューをしたりして詳細に事実や価値観を確認したりします。そして非常にざっくりですが、アメリカでは実際に、弱い紐帯が個人にとって有益な転職情報をもたらすことが確認されました。しかし一方で日本では、アメリカとは異なる結果が出たと言います。簡潔に言うと、日本では強い紐帯を通して転職情報が多くもたらされたという結果が出てきたのです。詳しくは経済社会学の簡潔で非常に分かりやすいテキスト:『経済社会学のすすめ』第七章をご覧ください*1

 このように理論として提示されたことは、実際に調べてみることで検証されることになります。そして上記のことから、理論は「一部では当てはまるけれど、他のところでは当てはまらない」ということが分かってくることもあるわけです。そうしたら次には「それはなぜなのか」を考え、仮説を立て、また実証をしていくことで、より詳細な社会についての知識を蓄積していくことができるわけです。理論と実証はこうした相互関係にあるものなのです。「恐らくこうなっている」という理論というか、仮説がないと、何を調べるべきなのかわかりませんし、それが正しいのか確認したり、間違っていると考えてもっと鋭利な調査をしたりしないと、理論の正しさや間違いは分かりません。したがって理論と実証は社会学の両輪なのです。

 

2.量的調査と質的調査

 

 先ほど「アンケートをとったりインタビューしたり」というように書きました。アンケートは量的調査、インタビューは質的調査と呼ばれます。例えばアンケートの質問項目は次のように構成されています。

 

① あなたは今の生活にどの程度満足していますか。次の中から一つだけ〇をつけて下さい。

1.とても満足している 2.ある程度満足している 3.あまり満足していない 4.少しも満足していない

 

 これは回答項目が4つなので「四件法」と呼ばれる形式です。このように構成された質問が30とか40とか並んでいるのがアンケートです。アンケートには次のような特徴があります。

 第一に、質問は想定する回答者の誰にでも同じように答えられるように作られています。第二に、自由回答を除いて原則的に「数量化」可能なように作られています。先ほどの質問で言えば「1,2,3,4」で数量化できますし、年齢ならば「20代=1、30代=2、40代=3…」といったように数字を振ってあげれば、まとまりを数量化できます。第三に、一人一人にインタビューするわけではなく、同じ質問が記載された質問紙を用いて調査を行うため、量が集めやすいのです(対象者の家を個別に訪問する形式ではたくさんの人員を用いなければ難しいですが)。

 以上のように、同じ質問を、多くの人にすることができる。またその情報は数量化可能である=統計的に処理することができるため、多く人が、どのような考えを持っているのか、どういった性質をもっているのか、ということが統計的に、つまりパーセンテージで分かる、傾向や偏りが分かるのです。ざっくり量的調査の説明をすると以上にようになります(もちろん、こうして取ってきた情報をどのような処理にかけるのか、ということで分かることが変わってくるのですが、それは応用編なので、そのためのテキストを当たるのが良いでしょう)。

 ある一群の人々がどのような考えを持つ人々で構成されているのか、どのような生活をしている人が、どのくらいいるのか、そういったことを理解した上で、さらにその人々の間に現れる違いがどのような考えや社会的地位、経歴などによって生み出されているのかについての推論を可能にする。それが量的調査です。

 

 一方で質的調査とは、量ではなく、その「質」を調べる調査です。簡単に言うと、量として扱えない、個別的な情報を丁寧に聞き取っていく調査になります。例えば次のように。以下ではAが質問者、Bが回答者です。

 

A「社会学という学問を始めたきっかけはなんですか?」

B「きっかけ、きっかけですか…。そうですね、遡って考えてみると、義務教育時代の友人たちの中で、勉強ができる人もいればできない人もいて、高校卒業後に進学する人もいれば進学しないで就職する人もいて、そういう違いがどこから出てくるのか、もしかしたら本人の考え方とかだけではなくて、彼らの周囲の環境とかが影響しているのかもしれないと考えたことがきっかけですかね」

A「周囲の環境が影響しているかも、と思い立ったのは、何か具体的な経験があったのですが?」

B「みんなそれぞれ違う家庭で生まれ育つじゃないですか。お金に余裕ある家もあれば、それほど余裕のない家もある。親が大学卒業をしている家もあれば、高卒の家もある。必ずしもそういうことが直結するとは思わないけど、きっといくつかの要因が関係して個人の意識が形成されたり、価値観が定まってきたりすると思うんですよ。実際に親が子供の学業に興味なさそうだったり、働けって言う場合もあるし、そういう環境を考えて、人生に差異が生まれてくるのかもしれないって、漠然と思っていたんですよ」

 

 アンケート調査ではあらかじめ質問項目を用意して、それを多くの人が答えられるようにしておきます。この場合、例えば最初のAさんの質問と回答はどうやって作ったらよいでしょうか。Q1.「社会学を専攻した理由として当てはまるもの1つ選んでください」=1.たまたま受かったのが社会学部だったから 2.自分の好きな先生が社会学をやっていたから 3.社会学以外の専攻に魅力を感じなかったから 4.社会学の対象とする研究がしたかったから 5.社会学の方法に惹かれたから…。

 きりがないですね。回答項目も「もれなく」「答えやすいように」作られているのか不安です。「その他」という項目を用意したら、そこに〇が集まるような気がしてなりません。例えば「友達がそこを専攻したから」とか「一番楽に卒業できそうだったから」とか「社会学者を目指していたから」とか…いろいろ考えられます。

 そうなるのは、この質問自体が量に還元して意味のあるものであるというよりも、丁寧に聞いて、その思考のメカニズムや、価値観の形成過程を追いかけることのほうに意味があるものだからです。そして世の中にはこのようにして、丁寧に個別に、聞き取っていかなくては捉えることの難しい人間の価値観や行為、というものがたくさんあるのです。「なぜ中学校から学校に行くのをやめたのか」、「フリーターという生き方を選択したのはなぜか」、「なぜ地元の祭りに参加しようとするのか」、「投票先をどのようにして決定しているのか」(こういったことのすべてがアンケートでは分からないわけではないのですが、一旦は丁寧に聞いて、いくつかの回答パターンを理解しているからこそ、次にはそれをアンケートで確認したり、偏りを把握できたりするわけです)

 

 質的調査は以上のように、丹念に質問していくことを通して、少数の事例から、ある思考や行為が成立していく過程を明らかにすることに向いています。一方でこれは少数の事例しか集めていないので、「他の場所、他の多くの人も、そうなのか」ということが言いにくい、という特徴―すなわち科学的に実証されているのかどうか、という点において弱点があります。友人数名に聞いたことが誰にでも当てはまるかどうかなど分からないし、多分そこまで普遍的な回答は出てくるとしたら、それは質問自体が「誰が答えても同じように答える」ことを聞いているのです。それではそもそも意味がない。

 先ほど、理論と実証は両輪だと言いましたが、実は量と質の調査も両輪です。アンケートで出てきた結果を深く掘り下げる場合にインタビューをすることもありますし、インタビューで理解できたいくつかの回答パターンを質問に盛り込んで、その回答がどのような社会的地位や価値観や経歴と関係しているのかを統計的に確認することもあります。「男性の方が実家からの自立を希望する傾向がある」とか、「高学歴の女性は自分と同等かそれ以上の学歴・収入を持つ男性との結婚を希望する傾向がある」とか、アンケートでないと数量的に確からしいとは言えません。お互いに弱点を埋めあっているのですね。量的調査は統計的正確さの担保や相関関係について確認し、質的調査はざっくりとした質問項目にはできない細かい事実やプロセスの確認、あるいはまだ知られていないような事実についての新情報を得るために行います。社会学は現場から知られざること、認識されていなかったことを学ぶ学問だと思います。

 

 そうそう、質的調査といってもいろいろあります。インタビューは基本的な方法ですが、それだけではなく、ドキュメント分析(文字資料を分析します)や映像資料、音声資料の分析もします。またライフヒストリー法、生活史法、参与観察といった数々の方法が質的調査にはあります。こういった調査法の感覚や面白さ、難しさを伝える良いテキストとして『質的社会調査の方法』*2はおすすめです。オーソドックスな調査の仕方をパターン化して教えるということは非常に難しいし、現場ではアドリブで動いたり発言したりすることが多いので(パターン化というかマニュアル化というか、はできず)、重要なのは「構え」を知ることかもしれません。あるいはテキストの役割は読者と一緒に「現場に降り立った」感覚を共有することなのかもしれません。上にさんざん概説的なことを書いていますが、調査について知ってほしかったら、一番いいのは「それをやっている一般向けの本を読んでみること」、つまり実践事例を見ることだと思います。武器の使い方は体で覚えるしかないと言えば、身もふたもないですが、特に質的調査はそうであるようです。

 

3.おわりに

 

 社会学という学問がどのようにして、対象となる社会、社会集団について明らかにしようとするのかについて、かなり駆け足でまとめてきました。私は社会学の中でも実証研究、とりわけ質的調査の専門ですので、そちらの説明が多くなりましたが、ここまでの記事は詳細な自己紹介や考え方の紹介を兼ねたものですから、ご容赦ください。社会学社会学方法論については先輩方の優れた書籍がたくさんあるので、そこに私が新しい知見を付け加えるということはブログではやりません(できないと言ってはならないのです。やってみようともしていないのに)。ご関心のある方はここで紹介した書籍は親切で読みやすいですから、手に取って頂ければよいかと思います。

 

 それでも最後にこれは言っておきたいと思います。上述の説明はかなり「個人より」の調査とか、理論とかの説明です。個人の行動とか価値観とかを事例にしていますから。しかし実際に社会学者が人々の行動とそのプロセスを追いかけたりするときには、「制度」を考慮することも大いにあります。

 制度というのは結構難しい言葉です。「社会保障制度」のようなものも制度、法律も条令も制度、徴兵制も制度です。多くの人々がその決まりに従ったり、利用したりする共同のルールや社会的な仕組みは制度で、人はそれを作ったのが自分であれ他人であれ、それを共有することを通じて社会を作っています。一方でこうした成文化されていない制度もあります。俗にいう「習慣」も制度なのです。厳密に言うと「人がAという状況では、Xという行為をするだろう」と期待される場合、その期待を構成しているのは制度に他なりません。それが成文化されていなくても、その認識、行為のパターンは「人々があるレベルで共通認識として持ち、時に(無自覚に)従っているもの」だからです。社会学者はこうした一連の、様々な制度という、構築されたルールやパターンを、人々の行動や価値観に影響するものとして捉え、研究しています。投票制度を考えずに投票研究が完結することはないですし、村の慣習を調べることなく個人へのインタビュー分析だけで完結する民俗学的研究もないわけです。このことは私の偏りを戒める意味でも、粗忽ですが書いておきたいと思いました。

 

 今回も長くなりましたが、以上になります。そろそろ概論ではなく、具体的な中身のある評論や時事エッセイでも書きたいところです。

 それでは。

 

*1:渡辺深(2002)『経済社会学のすすめ』八千代出版

*2:岸政彦・石岡丈昇・丸山里美(2016)『質的社会調査の方法―他者の合理性の理解社会学有斐閣